JSlash'EMのメモ NetHackと*bandの違い

 目次NetHackと*bandの違い

2021/1/15 リンク先が消失していた箇所を本文から削除

 今さらというか何というか、Slash'EMがどういうゲームなのか、というのを書きたいと思ったので書きます。多分いま、Slash'EMについて興味がある人で何かしら検索にかけた人はこのブログに行きついてしまうようになってしまったと思うのですが、そういう人達が「結局、データは分かったけどどういうゲームなのよ」と思わないとも限らない。というのは口実というか言い訳で、とにかくいろいろ書きたいから書きます。

 Roguelikeローグライクと呼ばれるゲームは無数にあって定義も様々にある中で、良く言われるのは「トルネコとかシレンみたいなやつ」という定型文です。ところがこの手のゲームをやってる方たちには当たり前の事と思いますが、ローグライクといってもいろいろある訳です。その辺の事はこことかこことかを 見て貰うと良いと思うので割愛。その辺を踏まえたうえでSlash'EMがどういうのか、というのを説明する為には、Slash'EMの元になっているNetHackと、ローグライクの中のもう一つの大きな流れである*bandの二つを比べる事でNetHackの特徴を浮き彫りにし、しかる後にSlash'EMについて触れる、というのが筋だと思うのです。
ここまで読んでいやな予感がした方は鋭い、この記事は*異常に*長いのでこの辺で引き返すのも選択肢のうちです。

 NetHackはそもそもの始まりであるRogueの影響を強く受けた、直系といっても良いゲームです。一方、Angbandとか変愚蛮怒等の*bandと呼ばれる系統のゲームは、RogueRogueクローンとはかなり異なるらしく、その辺の事情はここを下から読んでいただきたい)の影響を受けつつ別のアプローチから作られたゲームで、moriaというゲームに遡ります。この二つはどちらもローグライクに含まれますがプレイしてみるとかなり違うゲーム性で、結構好みが分かれる向きもあるように思います。どちらもそれぞれプレイ人口が(ローグライクの中では)多いように思われるので、比較対象として選んでみました。どちらか一方しかプレイした事がない人にも出来る限り伝わるように書いてゆくつもりです。ただ、自分がNetHackに比べて*bandはかなりプレイ時間が短いので、勘違いしていたり変に思いこんで決めつけている部分も出てくると思います。そういう時はぜひご指摘いただければと思います。

 まず根本的に、二つを大きく隔てる違いとして「閉鎖空間か否か」という点があります。*band(及び始祖となるRogue)では、立ち去った迷宮のフロアデータは完全にリセットされます。再びその階層を訪れたとしても、迷宮の構造、モンスターやアイテムの配置などはすべてリセットされており、従って同じ階段を昇り降りするだけで何度もアイテムをゲーム内に追加する事が出来ます。一方NetHackでは、過去の階層は全て立ち去った状態のまま保存され、再度その階に侵入した時は、前回の「続き」からになります。この為、アイテムは事実上ほぼ有限で、プレイヤーは生成されたアイテムを迷宮内の便利な場所に集め、管理しながらゲームを進める必要があります
 Slash'EMの中盤以降はかなり解消されますが、NetHackではクリアまでに必要になるアイテムと現実的に入手できるアイテムのバランスがかなりシビアで、クリアまでにどのタイミングでどのアイテムを消費するかというのを考えるのがプレイヤーに求められる戦略になってきます。この違いを例に挙げると、武器を強化するアイテムの使い方が大きく違う事は両方プレイした方ならすぐに気がつくでしょう。*bandでは見つけ次第この巻物を使って、少しでも現在の戦力を底上げすることが求められますが、NetHackではクリアまでに鍛えるスキルと相談しながら、最終装備に使う以外にどれだけ消費できるかを見極めながら、初期の武器を強化する必要があります。回復薬ひとつ取っても、*bandでは湯水のように使いますが、NetHackでは「いかに使わずにピンチを切り抜け、どれだけを最終版に向けて体力ドーピング用にまわせるか」というのが重要になってきます。
 ローグライクの大きな特徴である、「食料と満腹度」というシステムにもこの「アイテムが有限か否か」というのが関わってきます。このシステムはRogueの時点からありますが、プレイヤーが一か所に留まって延々と経験値や物資を稼ぐ事を防ぐ効果があり、ゲーム設計者が想定したバランスを補強する役目を担っています。ところが*band系統では前述したように迷宮内でアイテムを追加生成できる事に加え、迷宮外にある拠点で事実上無制限に食料を補給する事が出来るため、「満腹度」という要素は「インベントリが一つ食料で埋まる」という程度の意味合いしか持ちません。NetHackでは物資が安定するまで食料や武器防具を求めて先へ先へと駆り立てられるのに対して、*bandでは万全の準備をして安全圏内を何度も冒険する、という大きく異なるプレイスタイルを取る事になります。

 RPGタイプのゲームとして非常に重要な要素である、「キャラクターの強化」という点でもNetHackと*bandではかなり違いがあります。
 NetHackではレベルが上がると体力と魔力が上がりますが、筋力や素早さといった能力値は変化しません。これらは普段の行動に影響を受け、レベルとは関係なく徐々に上がったり、場合によっては下がったりもします。最初に選択する職業によっては最初から最大値になっている能力値もあったりして、少し意識しておけば中盤までにかなり能力値を最大値に近づける事が出来ます。*bandではレベルの上昇に伴い体力、魔力、その他の能力値も上昇します。能力値が低下するのは敵の特殊攻撃を受けた時だけで、普段の行動に影響を受ける事は基本的にありません。また、どちらも薬の類によって能力値を上昇させる事が出来ますが、*bandではゲーム開始時の能力値は最大値に対してかなり低く、クリアまでにかなりの数の薬を消費する事になります。NetHackでも*bandでも、能力値を高める事は大変に重要なのですが、NetHackでは「最終的に最大値に近い方が有利ではある」程度なのに対して、*bandでは「能力値を高めるという作業自体がゲームの目的の一つ」といえるほど、プレイ中のスタンスが違うといえます。
 また、キャラクターを死から守る為に必要となる、特殊な防御能力についても似ているようでかなり異なる部分があります。
 まず、”耐性”と呼ばれる、特殊なダメージに対する抵抗力について。NetHackでは、特定の敵の死体を食べた時にそれに応じた耐性が手に入ります。例えば、炎を吐いてくる”赤色ドラゴン”の肉を食べると”火への耐性”が身につくという感じです。この場合、耐性はキャラクター自身の能力となります。耐性は対応するダメージを完全に無効化する力を持つ為、序盤のコケ類などからうまく耐性が手に入れられれば、その後ゲームクリアまで特定のダメージに対しては完全に無敵になれるという事になります。*bandではどう違うのかというと、まず”耐性”は武具に付属する能力で、どれだけ数値が高い武器や防具を装備していても、必要な耐性がちぐはぐだと状況によっては全く役に立たないアイテムとなる場合があります。さらに、”耐性”は対応するダメージを軽減するだけで、完全に無効化するには”免疫”という希少な耐性を持つ武具を入手しなければなりません。さらに通常の耐性では最終盤の一部の敵には対抗できなくなる為、消耗品を使って一時的に耐性を一段階高めなければなりません。*bandでは武具はそれらが持つ数値の高さに加え、ランダムに付属する”耐性”をいかにうまく組み合わせるかが攻略の鍵で、「耐性パズル」と呼ばれるこの問題に頭を悩ませる事が*bandプレイヤーの楽しみの一つになります。NetHackでも防具に依存する防御能力はありますが、完全に必須なのは”魔法防御能力”だけで、もう一つ防具依存となる”反射能力”は、頑張れば無くてもクリアできなくは無いと思います。
 これらの違いは、ゲーム全体の長さや、*bandのゲーム目的が「アイテム収集」にもある点から来ているように思います。NetHackでは最終装備候補となるアイテムがそう沢山は入手できないバランスになっているので、そこにランダムでつく耐性がクリア必須、という事になるとちょっとつらい。また、*bandのゲームの長さで、序盤で手に入る耐性がダメージ完全無効化というものだと、後半に出てくる怪物がただの消化試合になってしまいそうかなとも思います。もしNetHackの後半の敵で、特定の消耗品を使いながらでないと倒せないという怪物がいるとすると、アイテムが有限である関係から大変に辛くなりそうですよね。そういう意味で、NetHackに登場する、武器の強化値を下げてくる”錆びの怪物”は”虐殺”候補という訳ですね。
 話が出たのでついでに書きますが、”虐殺”もNetHackと*bandでは扱いが違っていて、そもそも*bandでは"虐殺”が無い(筈)為、NetHackのように「いやな敵をゲーム全体から取り除く」という発想がありません。これはNetHackと*bandが、そもそも「どこを楽しむゲームなのか」という事に関わってくるので詳しくは後述しますが、”虐殺”の有無という点は覚えておいていただきたい。
 
 話を進めます。NetHackが*bandと違うまた別の側面として、「謎解き」の存在があります。これはNetHackRogueから変化した部分でもあるのですが、ゲーム中にはクリアまでに解明しないといけない様々な「謎」や「仕掛け」があります。これらはウィザードリィの様な単純な「鍵アイテム集め」ではなく、”倉庫番”フロアにおける「ブロック押しパズル」や、”城”への侵入方法、”メデューサ”の倒し方、また最終目的に関わってくる、”イェンダーの魔除け”を結局どうすればいいのか、といった謎です。*bandではこういったものは無い代わりに、怪物そのものがゲーム中の障害となってきます。ある程度の階層を進むごとに、通常出現する怪物が新しい攻撃方法や特殊な行動をとってくるようになったり、あらかじめ決められた特定の階にかなり強めの特殊な敵のグループが配置され、その怪物を一度で全滅させる事でご褒美アイテムがもらえるようになっています。プレイヤーには、その階層に初めて侵入するまでに「最低限これだけは必要」という目安までキャラクターと武具を強くしておくことが求められるわけです。
 NetHackの「謎」に話を戻すと、それらを解くには”神託所”と呼ばれる階層で「お告げ」という形でヒントを貰ったり、神話、宗教に対する知識が必要とされたり、純粋にパズルを解く能力が求められたりと様々です。今はネット上に全ての情報が公開されていますが、試行錯誤しながら解いていたプレイヤーの方たちの苦労と楽しさは想像を絶するものがありますね。

 最後にゲームの目的の違いに触れて、NetHackと*bandの比較を終わりたいと思います。NetHackでは”イェンダーの魔除け”を持ちかえる事、*band系統では”混沌のサーペント”や”バルログ”といった、ヴァリアント毎に異なる最終ボスを倒す事がゲームの大きな目的になります。NetHackにはいわゆる「最終ボス」はいませんが、魔除け入手前に”イェンダーの魔法使い”という敵を倒さなければならないので、この違いは些細なものに感じられるかもしれません。
 しかし、”イェンダーの魔法使い”は”死の杖”で一瞬で倒せたり、ゲーム中に登場する「最強の敵」ではなかったり(最高に面倒くさい相手なのは間違いないですが)と、一般のRPGにおける「最終ボス」とはかなりポジションが異なります。
 他方*bandの最終ボスはいわゆる「最終ボス」で、そこまで集めた最高の装備で、大量の回復薬を掻き集めた万全の準備で臨まなければ勝利はおぼつきません。

 この違いは、NetHackと*bandの違いが最も顕著に現われた部分です。これまでに挙げてきた全ての例をまとめると、*band系統のゲームは「より強力な武具を集めてどこまでもキャラクターを強くする事」がゲームの大部分を占めていると言えます。その成果をプレイヤーが実感できる相手として、力のすべてをぶつける事の出来る「最終ボス」がゲームに不可欠となってくるわけです。従って、ちょっと巻物を読むだけで嫌な敵がごっそりゲーム上からいなくなるという”虐殺”というシステム自体が*bandとは相容れない訳です。
 対してNetHackは敵を「処理」しつつ「謎を解く」事がゲームの根幹であり、最終盤の敵の群れは"争いの指輪”の力で同士打ちさせつつ”瞬間移動の杖”でまとめてどこかに飛ばすのが最も楽で安全なのです。この大きな違いは、同じローグライクのなかでも相当に大きな違いだという事がお分かり頂けると思います。どちらがどうというのではなく、好みの問題だと思いますが、どちらか片方しかやった事が無い方は、単なるヴァリアントの違いと全く違うレベルの、ゲーム性の違いをぜひ体験してもらいたいと思います。

 さて!ここからがやっと本題です。ここまででNetHackがどんなゲームか良く分かりましたよね!ね!それらを踏まえて、Slash'EMがどんなゲームなのかというのを書いて行きたい…いきたいけど、さすがに長い!ので、記事を二つに分けます。また後日。ここまで読んでくれた方、ありがとうございます。お疲れさまでした。

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Slash'EMがどんなゲームか